ふたたび出会って綺麗になる

秋の終わりの昼休み、和馬(かずま)が裏庭に消えてゆく姿を見かけた。
 一人だけでひとけのない場所にゆく和馬を、篤史(あつし)は夏以降頻繁に確認している。
「だれに呼び出されてるんだよ」
 ふたりだけの時にそう聞くと、
「その都度違うから、答えられない」
 と答えられた。気になってあとを付けたことがあるが、同じクラスの奴だけでなく、上級生にまで告白されていた。
(今日のも、告白なんだろうな)
 夏の終わりに告白し、秋に体を繋げて以来、和馬の雰囲気が変わった。
 なんといえばいのか、近寄りがたく神々しい美しさなのだ。
 和馬の周りだけ光り輝いているようで、眩しくてまともに見ていられない。そう思っているのは篤史だけではないようで、和馬の魅力はとどまることを知らな いように、まわりの女子たちを夢中にさせている。

「篤史、なにぼーっとしてんだよ」
 窓の外を見てため息を吐いていると、同じグループの奴らにこいこい、と手招きされた。
「第三回・一年二組のかわいい子ランキングやってるんだけど、お前の意見聞かせろよ」
 吉見をはじめとする男子たちが、秋のはじめに写した学級の集合写真(を撮ったスマホ)を見て、指を差し合う。
「相変わらずアホだな」
 雛壇状に四列、男子と女子に別れてこちらを見ている写真で、和馬とは別グループなので離れて映っている。
 カメラの方向を見ている和馬は相変わらず色白で、やけにまつげが長くて色っぽい。ブレザーを着ているから男子学生だと分かるけれど、以前みたいに女のよ うな格好をすれば間違う奴もいるだろう。
「俺は、こいつとこいつだな。矢野は?」
 正直言うと和馬以外はそんなに心に響かないが、これも付き合いだ。比較的好みの女子を何人か心の中で選ぶ。名前を言うと、周りにいる女子に品定めをして いることがバレるので、指を指し「こいつ」と言うと、隣の矢野も同じように指さしてゆく。
「こいつとこいつと」
「矢野の好みはわかりやすいよな。清楚で美人系が好きかー」
 そう冷やかしていたとき。
「あと、こいつ」
 矢野が指さした先に映っていたのは、和馬だった。
(え?)
 まさか、矢野も和馬のことが好きだったのかと心臓が大きくはねたとき、吉見の「あれっ」という声が聞こえた。
「こいつ、館山(たてやま)じゃねぇ?」
「あ、ホントだ」
「しっかりしろよ。館山、男じゃねぇか」
 吉見が肘で矢野を小突く。
「悪ぃ、どうかしてた。そっか、館山だったなぁ」
 あはは、とその場が一気に笑いに包まれてゆく。篤史も表面上は笑い顔を作ったが、心の底から笑うことが出来なかった。
 矢野の態度が気になって、授業中に矢野のほうをちらっとのぞいてみたら、案の定和馬の席を眺めて、ぼうっとしていた。矢野はもののはずみでなく、和馬の ことを意識している。
 確かに和馬は、綺麗になった。篤史以外の男から見ても「かわいい」と映るくらいに。
 けれど、それが篤史にはおもしろくない。
(和馬は俺のものなのに……)
 皆に和馬の姿が見られているのが癪にさわる。妙な独占欲に苛まれてしまう。以前も思ったが、和馬をどこかに閉じこめて、篤史しか見られなくしてしまいた くなる。

 その日は、サッカー部で遅くまで居残り練習をしていた。というのも、和馬と一緒に帰ろうと約束していたのだ。図書室で遅くなった和馬と偶然出会ったとい えば、道で同じクラスの奴らに会ってもいいわけ出来るからだった。
 秋の終わりは日の入りが早く、橙色に染まっていた空がもう、薄紫に変化している。
 一人でトンボを引きずってグランドを馴らしていると、グランドと校舎のあいだを結ぶ階段に、和馬の姿が見えた。
「お疲れさま、あっちゃん」
「和馬」
 遠目から見ても和馬は美しい。汗で汚れている自分と比べると、微笑む姿がやけに清浄に映ってしまう。けがれのない、宗教画の天使みたいだった。
「どうしたんだ?」
 しばらく和馬に見とれていたようで、本人が首を傾げている。
「いや、ちょっとな。和馬、こっち来て」
 トンボを倉庫に片づけ、和馬の手を引いて部室に連れ込む。
 矢野のこともある。和馬が今日、誰に告白されたのか、聞いておかないといけない。それは、彼氏である篤史には許される権利だと思うのだ。
「なに? 汗くさいし埃くさいな、この部屋」
「あのさ、今日の昼休み、だれかに呼ばれてただろ」
「え? ……ああ、隣のクラスの女の子に。俺のことが気になるって言ってたけど、断ったよ」
「そっか……」
 女子か。それなら想定の範囲内だけど、やはり和馬がモテているという事実は篤史を不安にさせる。出来れば篤史しか見てほしくないのに、和馬の美しさ、ま ぶしさは周りの人間を魅了しているのだ。
 ちらり、と和馬を見ると、やはり蝶が鱗粉を振りまくように、辺りの空気さえきらめいている。
(こいつ自身は、自分が綺麗になってるって自覚がないんだよな……)
 周りのものを照らしてしまうような輝きを放つ和馬といると、そわそわしてしまう。こんな綺麗な和馬を誰にも見せたくない。和馬とふたりきりで、どこか遠 くに逃げてしまいたい。
 ぐいっ、と肩に手をかけてこちらを向かせる。
「気をつけろよ。前の変態医者のこともあるし、お前隙だらけだから」
 隙だらけという言葉が悪かったのか、和馬がむっとした表情になる。
「どう気をつけるんだよ」
「だから通りを歩くとき、一人きりにならないようにするとか、天体観測のときは家の中にいるとか。また変な奴に狙われたら危ないだろ」
「なんでそこまでしなきゃいけないんだよ。俺、男なのに」
  そう言われると、その先が言えなくなってしまう。和馬は自分が女装していた過去を嫌がり、ことさらに自分の性別が男だと強調する。男だからしっかりしない と、と前にこぼしていた。見た目が美しくなったなどと言うと、また気にしてしまう。和馬が変わったから心配なのだと、ストレートに打ち明けられないではな いか。
「篤史、答えろよ」
 眉を寄せてこちらに迫ってくる和馬の怒った顔も、造形が整っているせいか迫力がある。美しい者は、怒った顔も綺麗なんだな、と妙なところで感心してしま う。
「お、お前が……」
「俺が?」
 薄暗い部室の隅に追いつめられ、篤史はふいっと目を逸らした。
 和馬自身がキラキラしていて、まわりの空気さえ浄化されるようだ。おまけに近寄られると、なんだかいい匂いがする。おそらく整髪料だと思うが、甘い誘う ような香りが和馬から発せられて、くらくらしてしまう。
「そんなにこっち見んな。お前、フェロモン出すぎ……」
 顔がカッと熱くなった。これ以上和馬に近づいたら、どうにかなってしまいそうだ。
「なに言ってんの? 全然分かんねぇ」
 和馬は、そんな篤史の気持ちなどまるで理解できないという表情をしてどんどん迫ってくる。ドン、と壁に背中が付いたというのに、和馬はまだ篤史のほうへ 近づいてくるのをやめない。
「わっ、待て、待て!」
 鼻の先まで近づいた和馬を手で押しとどめ、ぼそぼそといいわけのような言葉を口にする。
「お前が最近、綺麗になったから……」
「え?」
「正直いって、誰かに取られるんじゃないかって、気が気じゃねぇんだ」
 言った。和馬が言われると嫌がりそうなことを言ってしまった。
 格好悪い。
 もっと、『俺のものになれよ』『俺以外見るな』みたいな言葉を言いたかったのに、いつも篤史は和馬の前で余裕のない姿をさらしてしまう。 
 だって仕方がない。和馬は同級生で同性で、篤史の思うままに動く人形じゃないのだ。あくまで対等な立場の男だ、無理強いは出来ない。
「あっちゃん。俺、そんなに変わった?」
 ほとんど篤史とくっついてしまうほど近づいていた和馬が、すっと体を反らしたので「お、おう」と返す。
「周りの普通の男が、かわいいって言うくらいにはな」
 矢野は、かなり和馬のことが気になっていたようだった。
(そんなこと言っても、こいつは信じないだろうけど)
 篤史は心配なのだ。
 もし、矢野に言い寄られて、和馬がその気になってしまったら。
 篤史のことなど、もう好きじゃなくなったら。篤史はそれほど、自分に自信がない。けれど、それこそ格好悪すぎて、和馬の前では打ち明けることなど出来な い。
「俺はあっちゃんが好きなだけだよ。変わったとしたらそれくらいだ。昔と違うのは、あっちゃんも俺が好きって言ってくれて、気持ちが通じたくらいだけど」
 少しはにかんだ和馬の表情が、艶っぽさに拍車をかけ、心臓を打ち抜かれてしまう。
「和馬……!」
 思わず手を握り、すがりつくような声を出してしまう。
「和馬、これから夜ひとりで出歩かないでくれ。この前の医者だけじゃない。お前は自覚がないから、ほんとに危なっかしいんだ」
「天体観測を公園でしたいときはどうすんの?」
「俺がついていく!」
 鼻息も荒く自らボディガード役を引き受けようとすると、和馬がくすっと笑った。
「じゃあ、頼むよ」
 そのまま首に抱きついてきたので、立ったまま唇を重ねた。
「は……」
 そんなに長くするつもりはなかったのに、篤史の言い分を聞いてくれたのが嬉しくて、次第に口づけが深くなる。
「和馬、好きだ……」
 熱に浮かされたように、和馬の名前と愛の言葉が口から出てしまう。 
 ―と同時に、腰には例の衝動が駆け抜けた。相変わらず、篤史の性的衝動は膨大で止めようがないのだ。
 きょろきょろと部室のなかを見渡し、念のため窓を開けて確認する。よく、部室の外で休んでいる部員がいるので、油断はできない。
「よし、誰もいないな。俺、さっきから我慢できねぇんだ」
 和馬のネクタイを、するりとほどく。
「帰りが少し遅くなるけど、ここでしよ。いい? 和馬」
「んっ」
 和馬がふれるだけの口づけで、返事をくれた。

 和馬をベンチに座らせ、腰を屈めてはだけさせたシャツから覗く胸に舌を這わせる。
 赤く色づいた実を舐めると、すっかり敏感になっているのか和馬はびくん、と体を揺らした。
「ん……っ」
 時折顔をそらして眉をしかめているのは、快感に耐えているのだろう。顔が真っ赤で、こちらの行動ひとつに反応してくれるのが、いじらしくてかわいらし い。
 腕を檻のようにして、横たわらせた和馬を閉じこめる。下生えをそっとなぞってその先の性器をゆるく握ると、和馬が脚をすりあわせ、抗議するような目つき になった。
「や、あっちゃん」
 もじもじとして頬を染める姿は決していやがっているようすではないのだが、明らかに「や」と言われると全身から脱力してしまいそうだ。
(嫌なわけないのになぁ)
「和馬、いやがらないでくれよ。いやって言われると、力が一気に抜けちまう」
 はぁ、と大きなため息をつくと、「ごめん」としおらしく謝られた。
 そういえば、一番最初に体を繋げたとき、「嫌じゃないのに口に出る」と言っていたな、と思い出す。これは和馬の癖なのだ。
 篤史は気を取り直して、ちゅっと和馬の額に口づける。
「いいよ。お前が照れてるのわかってるし、いやっていうのも癖なんだって知ってるし」
「だから、続きしてもいいよな?」と耳に吹き込むと、和馬の顔がさっと赤くなった。
「うん」
 頷いた和馬が、また所在なさげに身を縮こまらせる。
「……してほしい。俺、あっちゃんじゃないと、こんなことしない。きもちよくなんかならない」
「和馬」
(やばい、めちゃくちゃにしたい)
「あぁ、もうかわいくて仕方ねぇ。和馬、和馬……っ」
 狭い部室の中、背のないベンチに押し倒す格好で和馬の唇をふさぐ。
 もっと気持ちよくさせたいのに、今の篤史には気持ちを吐き出すことしか出来ない。
 和馬も同じ心境だったらしく、仰向けで脚を開き篤史を誘う。
「あっちゃん、はやく」
 和馬が人差し指と中指で広げた蕾は、ひくひくと物欲しそうにうごめいていた。
(和馬。俺しか考えられなくしてやりたい)
 蕾のまわりに自らの唾液を急いで塗りつけ、一気に貫いた。
「ああっ」
 今日は慣らす作業を省いたせいか、少し内壁が硬いような感触がした。けれど中のほうへ進むと、あたたかくなめらかな肉襞が篤史を快く迎えてくれた。
 そのまま二回ほど抽挿する。ずん、と奥まで差し込むと、向かい合っている和馬の目つきがとろんとしてくる。焦点が定まっていない、半分眠っているような 瞳だ。今、なにを考えているのだろう。篤史が挿入っているのが、気持ちいいのだろうか。
「和馬、奥のほうに入れたら反応がいいんだよな。奥が好き?」
「す、好き……」
 これはいわゆる、トロ顔というのだろうか。
 弛緩しきった表情に加え口は半開きで、唾液が流れ出している。淫蕩で、こんな顔を篤史以外に見せられない、と思えてまたしてもどこかに和馬を隠したくな る。
 けれど、そんなに蕩けきった姿をもっと追いつめたい欲もじわじわと湧いてくるから、つくづく自分は和馬にいやらしいことをしたいのだな、と思える。
「どんなふうに感じてんの?」
「ん……。鈍く痛むような感じがして、そのあと切なくなってもっとほしくなる。だから」
 潤みきった瞳と舌っ足らずな口振りが、酒でも飲んでいるかのようだ。
「だから?」
「だから、思い切り奥まで突いてほしい……」
 そこでやっと自分がどれだけ恥ずかしいことを言っているのか自覚したのか、頬を染めたままの和馬はふいっと視線を逸らした。
 自分の欲望を打ち明けるのは結構勇気がいるだろうに、篤史が聞いたから素直に答えてくれたのだ。
 かぁっ、と顔に血が昇ってゆく。と同時に脚の間が熱くなっている。潤んだ瞳の和馬を見ていると、ぶち犯したいという欲求がふくらんでしまう。
「本気出すからな、運動部の底力なめんなよ」
 ずるりと性器を引き抜き、出来るだけ奥深く目がけて腰を打ち付けた。
「あ、あぁ……っ」
 悲鳴のようだが、声に快感が隠せない。和馬は矯声を上げていた。
「和馬。お前のいいところどこ?」
「あ、あたってる。さっきからあたってる、あっちゃん……っ」
「そうか、ならもっと突くからな」
 ぐっと腰を深めると、ぐちゅっという水音が部室に響いてゆく。普段この場所では色恋などとは無縁のところにいるので、好きな奴を抱いている事実が嘘のよ うだった。
 奥を突けば突くほど和馬のなかがうねって、篤史を締め付け、それがいっそう気持ちをたかぶらせてしまう。ぱちゅ、ぱちゅっという音と、性器を出し入れす る場所のぬめりは和馬が感じているということを表していた。
「んっ、おかしくなる……っ。奥がしびれて、ヘンになる……っ」
 和馬は自分がなにを言っているのか分かっていないのだろう。忘我の境地にいるようだ。そろそろ無意識で『いや』っていいそうだな、と気づいて牽制をかけ ることにした。
「これだけお前の好きなことしてるんだから、もう嫌って言うなよ」
(けど、俺もそろそろ限界かも)
 性器が和馬の奥深くに引きずり込まれそうだった。
「あっちゃん。好きだ、好き……っ」
 和馬が、背中に手を廻してしがみついてくる。
 その途端、赤ずきんを食べる前の狼の言葉を思い出した。
『お前がかわいいから、食べるんだよ』
 きっと、かわいいと思うあまりに狼は赤ずきんを文字通り食してしまったのだろう。
 今の篤史も、同じような気持ちだ。
 食べてしまいたい。もっと和馬の奥を知りたい。
 でもこれ以上行けないから、和馬の唇をふさいでみる。
 和馬の唇の表面は羽のようにふわふわと柔らかく、これが本当に高校生男子のものかと疑いたくなり、吸いついて中からあたたかなぬめりを確かめたくなって しまう。じゅっという音をさせて舌を絡めとり、和馬の唾液を貪ると、背中をどんどんと叩かれる。息が出来なくなったのだろうか。
「もう一度言って、和馬」
「あっちゃん、好きだよ」 
 キラキラと涙で潤んだ瞳で繰り返され、今この瞬間和馬が自分だけのものになった気がして嬉しくなる。もうこの愛しい存在を離したくない。
「和馬、一緒にいこうな」
 和馬の肉茎に手を伸ばし、優しくこすりあげる。
「あっちゃん、あっちゃん……!」
 和馬の声が耐えきれないものに変わってゆき、体全体がびくびくと痙攣した。きっと、絶頂を迎えているのだろう。
 篤史も打ち付ける腰の速度を速めてゆき、次第に頭のどこかが熱くなってゆくのを感じる。
 ああ、滑走路から飛び立つようだ。
「和馬っ……」

 ベンチに寝ころんだままの和馬を見下ろして息を整える。胸の動機が激しくて、全身が汗ばんでいる。
「は……」
 和馬の精液で腹が汚れていた。和馬の後孔からも、わずかだが白いものが流れている。
「う、ん」
 和馬が苦しそうな表情を見せたので、ベンチにしゃがんで話しかけた。
「和馬? どうしたんだ」
「おかしなかんじがする。まだ腹ん中にお前が入ってるみたいだ」
 和馬の腹の中に、篤史が。
 そう言われると、一気に顔中に血がのぼってしまう。怪訝そうな和馬がそう尋ねてくる。
「なんで赤くなるんだ?」
「だって、もうえっちが終わったのに、あからさまなこと言うから」
 篤史にとって睦言は、閨(しとね)の中だけのものだ。普段は恥ずかしくて、そんなことがとても言えない性質なのだ。和馬のほうを見ないようにしていた ら、明らかに機嫌を損ねた声が聞こえてきた。
「えっちの時だけしか、そういうこと言っちゃいけないのかよ。さんざん俺に、いいって言えとか言ってたくせに」
 ぷうっと頬をリスのように膨らませた和馬が、怒った顔になる。
 けれど、なまじ美しくなってしまった姿でそんなことをしても、かわいらしいだけだった。
「いつもそうだ。こっちがやっとそういうやらしいことを言う気になったら、お前はさっさと家に帰っちゃうんだもんな。理不尽だ」
 和馬がふくれっつらのまま続けるので、そんなに自分は薄情だったかな、と不安になる。
「俺、そんなに露骨か?」
「篤史はえっちの前と最中しか、そんなセリフを言わない」
 ベンチで寝ころんでいた和馬が体を起こし、そっぽをむいてしまった。
「えぇと……。ごめん」
 なんと言えばいいのだろう。謝ったほうがいいことは、明らかだったが、それ以外にいいわけなどをすると、和馬をより怒らせてしまいそうだ。
「でも、俺が毎日そんなやらしいこと言ってたら、年中発情するぜ? お前、体もたないよ」
 これはほんとうだ。さきほどは思い切り突いてほしいと言われたからそうしたが、普段の篤史はもっと自分でセーブしている。大好きな和馬を、欲望のままに 抱いて壊してしまいたくない。
「俺がそれでもいいって言ったら?」
 和馬がこちらを向いて挑むような表情をし、目が合うとすぐにうつむいてしまう。 
「俺が……き、綺麗になったとか言うんなら、きっと篤史のせいだ。毎日お前のことを考えてるから。だから毎日やらしいことをされても、受け止める覚悟はあ る」
「和馬」
 うつむいたままの和馬が、耳まで赤くなっている。
「あ。べ、別にやらしいことがしたいからじゃないからなっ!」
 なにかに気づいたように、むきになる姿が愛おしい。
「バカ。そんなこと思わないよ」
 ふ、と微笑んで、和馬の頬に手を添える。
「もう一回、キスだけさせて」
 こくりと頷いたので、そっと唇をふれあわせ、互いに見つめ合う。
 和馬の輝きは止めようがない。だったらせめて篤史のほうにだけ、向いてくれるように努力しなくてはいけない。
「和馬、好きだよ」
 素面でこのセリフを言うのは、ほんとうに照れるけれど、一番効果があるって知っている。
「うん。俺も」
 和馬が照れたようにそう答えてくれる。
 そっと手を握ると、小春日和のように柔らかな微笑みをした少年がそこにいた。


***あとがき***

「ふたたび出会って好きになる」というBL小説の後日談です。
本編はこの話と同じ篤史(攻め)視点・幼馴染み再会もので、甘酸っぱいお話です。
晴れて付き合うことになったけれど、綺麗になってゆく和馬に気が気じゃない篤史、というネタを頂いたので書いてみました。
篤史というキャラは直情型で考えると同時に手が出ます。和馬も思慮深そうでいて、わりと即行動に移すので、ふたりの先行きがやや不安です。
今回の篤史は以前にも増して余裕のない少年になりました。安定のR指定です。

きよにゃ


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