あたたかな掌 SS2 (悠真視点)

先輩が先輩じゃなくなる日 

 雪がちらつく中、小鳥遊の合格発表を見に大学に向かう。
 美大の広場に面した壁に貼り出された合格者発表の紙を、受験生らしき者達がかじりつくように見ている。
 悠真は小鳥遊の手にある受験票を確認し、壁面の番号を追っていく。
「一〇五六一番……」
 合格者の番号は連続していなくて、その分不合格者がいるのだと思い不安になってくる。番号の頭が一万番になった時、心臓が早く鳴り出した。
 隣を見ると、小鳥遊は時が止まったような顔をしていた。もう結果が分かったのだろうか。
結果がどうだったのかを尋ねたいが、彫像のように固まっている姿を見て、もし駄目だった場合傷つけることになると思って声が掛けられない。
 早く、早く先輩の番号がありますように。
 胸が押さえつけられたみたいで苦しいくらいだ。
「一〇五六〇番、一〇五六一番!」
(あった! 先輩の番号だ!)
「せんぱいっ、受かってます!」
 声が震えてしまう。視界が潤んでいるような気がする。
 隣にいるヘーゼル色の目が合うと小鳥遊も涙ぐんでいて、広く暖かい胸にぐいっと抱き寄せられた。鼓動がドクドクと小刻みに脈打たれている。
「正直、結果は半々だと思ってた」
 ほうっと息を吐いた。手がかすかに震えている。落ち着いて見える小鳥遊がこんな風に動揺している姿を見たのは、これで二度目だ。
「よかった。受かったもの勝ちです」
「付いて来てくれてありがとう、悠真」

 ぽんと頭を撫でられ、人気のない中庭に行き缶コーヒーをおごってもらう。大学生がたまに通り過ぎる位で、ほとんどの受験生はまっすぐ帰っているようだ。
「悠真は甘いのが好きなんだったね」
「はい。先輩はブラックですか?」
 うん、と地面を見ながら隣のベンチに座った小鳥遊が答える。試験の結果を噛みしめているのだろうかと思いながらコーヒーをすすっていると、小鳥遊ががばっと顔を上げた。
「その『先輩』っていうのはそろそろやめにしない? 僕ももう大学に入るから悠真の先輩じゃなくなる」
「え。じゃあ小鳥遊さん、とか……?」
「なんで名字なの。名前で呼んで欲しい。瑠依だよ」
 眼鏡の奥に潜む薄い色をした瞳が、悠真に訴えかける。
「る、瑠依……?」
 おそるおそる名前を呼ぶと、小鳥遊の表情が緩んで柔らかくなっていく。優しい視線に包まれて、冷えた手を暖められていた時のような安心感に包まれる。
「そう、これからはずっと瑠依って呼んで。その方が対等だろ?」
 にこりと微笑まれ、反論する言葉が見付からない。小鳥遊が自分との距離を縮めたがっている事実がくすぐったい。
(そのうち、ですます調も直せと言われそうだな――)
悠真は苦笑しながら、ミルクと砂糖がたっぷり入った缶コーヒーを飲み干した。

【了】




【あとがき】
 Jガーデンの企画「もう帰っちゃうの? ポスター」に参加したものです。
テーマは「スイーツ」。どちらも甘い描写を入れたのですが、二話目の方が上手く出来たかな。
 悠真視点の「先輩が先輩じゃなくなる日」は本編を読んでいないと分からないなぁ……と気付き、慌てて本編中の先輩視点を作りました。
 文庫本に番外編を入れたかったのですが、補足的なものが何とか出来てよかったです。

 お付き合い下さり、ありがとうございました!
                 きよにゃ
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