あたたかな掌 SS1 (小鳥遊視点)

僕の好きな男の子 

 好きな子が出来た。彼は僕の絵のモデルだ。
「久しぶり、悠真」
 クロッキー帳を手にごちゃごちゃと物が散らかっている準備室のドアを開けると、大きな瞳をくりくりさせた悠真が駆け寄ってくる。
「先輩、今日はどんなポーズをしたらいいですか?」
「ああ、机の上に座って後ろに手をついて、足を投げ出す感じで」
「はい」
 絵のモデルをするのがはじめてなようで、今日もとても緊張しているけど、かたかたと震えながら辛抱してくれている。

 僕の方に足を投げ出して無防備な格好をする悠真を見て、想像する。
学ランに包まれた彼の華奢で幼い体を。悠真と僕との体格差があれば、彼なんていくらでも思うように出来ることだろう。
 近いうちに僕のことで頭をいっぱいにさせて、身も心も僕のものにしてしまいたいという欲望が膨らんでいく。
「……先輩? タイマーが鳴りましたけど、まだ続けますか?」
 危ない、ぼうっとしていた。
 慌ててさきほどまで食い入るようにして見ていた姿をクロッキー帳に描きつける。やっと描きおわってほっと息をつくと、背後に悠真が立ってい
た。
「……悠真は僕の絵を見るのが好きだね」
「先輩のお手伝い出来るのが嬉しいんです。それに、上手い人の絵は参考になるし」
 僕の絵が好きだというのが恥ずかしいのか、照れくさそうに笑った。
  その笑顔を見ると胸がきゅうっと締め付けられる。なんてかわいいんだろう。甘すぎるココアを飲んでしまったように頭の天辺から痺れが広がっていく。思わず手を取った。
「じっとしてたから指先が冷えてるよ」
「は、はい――」
 手をさすってやるうちに頬や耳が赤くなっているのを、僕は見逃さなかった。潤んだ瞳は流行りの豆芝という犬のように黒くつやつやと光っている。
 この子は僕にふれられるのが嫌ではないらしい。多分意識しているんだろう。外国人風な自分の見た目が好きじゃなかったけれど、この子を惑わせられるほどの容姿で良かったと思う。

「先輩、ありがとうございます」
 礼を言われた瞬間、床に押さえつけて顔じゅうにキスをしたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて笑顔を張り付けた。
 まだ時期が来ていない。彼に好きだと伝えていない。
「どういたしまして。かわいい後輩にまた倒れられたら困るからね」
 今はまだ先輩という立場でいたい。彼自身に、僕を意識していると分からせないと気持ちが通じない。
「悠真のおかげで大分進んだよ。ありがとう」
 笑いかけると真昼の太陽のような明るい笑顔が返ってきた。
「部室に戻ろうか、悠真」
「はいっ」
 卒業するまでに、僕のことしか考えられなくしてやる。
 それまではせいぜい、優しい先輩のままでいよう。 

【了】
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